『アントレプレナー教育:Global Enterprise Challenge 2006』


日本経済新聞夕刊 2006年(平成18年)10月23日

高校生がアイデア対決
学習成果試す場次々「基礎体力」作り


高校生がビジネスのアイデアを競う起業家コンテストが盛況だ。生徒は夢を社会に売り込むことに手応えを感じ、教師は起業家教育の成果を試す好機と位置づける。実際に商売を体験する欧米の先駆的な試みには及ばないが、チャレンジ精神や困難を乗り切る力は就業体験に生きてくる。

世界大会で熱弁
年の瀬恒例の「今年の十大ニュース」。京都市伏見工業高校では、このうち一つはすでに確定しているようだ。今夏、スコットランドで開いた高校生のための起業家コンテスト世界大会。三年生七人が日本代表として挑んだ。
「今後十年間に温暖化ガスを削減し、あなたの街の経済にも貢献するプランを二十四時間以内にまとめよ」--。米航空宇宙局(NASA)が出題した難問に、米英独など十五カ国・地域の代表はどよめく。
伏見工はテレビ会議で参加したが「伝統の町屋を生かせば、風通しが良くてクーラーはいらない。観光客も集まる」とイラストを使って熱弁をふるった。
優勝はウェールズに譲ったものの、初めての国際舞台にも臆さなかった。大槻志保さん(18)は「発表会やコンテストを何度も経験するうちに慣れてきた」

独立心もわいてきた。篁(たかむら)将平さん(17)は「会社に頼らず、フリーのデザイナーになりたい。別のビジネスコンテストにまた参加します」。  
同校産業デザイン科は三年ほど前にアントレプレナー(起業家)教育を取り入れた。科全体をデザイン会社になぞらえる。三年生の演習は土産やPR、タウン情報誌など部門ごとに八人のチームが事業機会を探る。
九月には土人形で有名な伏見人形をかたどったぬいぐるみを発表。地元の稲荷繁栄会と協力し、参拝客など向けに発表した。京都市伏見区の見どころを詳細に調べ、サイクリングコースをまとめたのも業績の一つ。観光客らが使いまわす無料自転車の設計を急ぐ。
幸野理乃教諭は「授業を通じて、忍耐力やコミュニケーション力、企画力、マネジメント力を養う」と説明する。高校で商売そのものに踏み込むのは難しく、コンテストは、学習の成果を試す好機という。
特定非営利活動法人(NPO法人)アントレプレナーシップ開発センター(京都市)の原田紀久子事務局長との出会いが参加のきっかけだった。原田さんは小学校や中学校にまで起業家教育が広まるフィンランドを視察。子供たちの自立心や社会参加の意欲を促す教育法を日本に持ち帰る。
ところが日本では社長養成教育と誤解され、「高校生に起業家教育は早すぎる」とまゆをひそめる人もいる。高校生向けの起業家コンテストに力を入れるようになったのは「学校を飛び出し、社会で生きる力を育てることが大切」と高校の内外に伝えたかったからだ。起業家の基礎体力づくりに通じる運動だ。
世界大会代表を選ぶ初の国内予選を同センターが企画したところ、同志社国際高校や立命館守山高校などが名乗りを上げた。起業家教育が高校でも受け入れられるようになった表れだ。

大学と連携も
起業家教育に詳しい大阪商業大学の佐々木保幸助教授は「一九九〇年代以前から起業家教区を始めた大学と緒に就いたばかりの高校との間で一貫教育ができていないのが課題」と指摘する。
大学の試行錯誤の経験を高校に生かせないか。大商大が出した答えは高校野球に倣った「ビジネスアイデア甲子園」の開催。「心ときめく新商品」や「地域を活性化させるビジネス」を全国の高校生から募り、大学が審査員を担当する。
過去の受賞対象は「収穫間近の鉢植え野菜の宅配」や「商店街の店舗を証券化して地域限定の通貨で配当を払う」。五回目となる今年は二十八日が締め切りだが、昨年は約三千八百件の応募が殺到した。
二〇〇三年に高校教師らと起業家教育研究会を立ち上げた。翌年には起業家教育の手引書をまとめた。「企画書の書き方」「プレゼンテーションの仕方」など生徒が関心を持ちそうな項目を満載。教師でも手探りの話題が並ぶ。今でも研究会に全国の高校から百件以上の問い合わせが舞い込む。
高校生で将来の職業を起業家と決められる人は多くないが、進路を自力で切り開く気概に満ちた若本がスモールビズの担い手になるのは間違いない。
                                      (大阪経済部 加藤宏志)